アニメ映画『イヴの時間』が静かでオススメ
『イヴの時間』と言ってもクリスマスとは無関係なのですが...
クリスマスの夜に落ち着いた感動を味わいたい方はぜひ見て欲しい名作です。
あらすじ
未来、たぶん日本。
ロボットが実用化されて久しく、
人間型ロボットが実用化されて間もない時代。高校生のリクオも幼少の頃からの教育によってアンドロイドを人間視することはなく、便利な道具として利用していた。ある時リクオは、自家用アンドロイドのサミィの行動記憶の中に奇妙な言葉が含まれている事に気づく。
親友のマサキとともにサミィの足跡をたどると、そこには「人間とロボットを区別しない」というルールを掲げた奇妙な店が広がっていた…。
あらすじはこんな感じでして、ロボット対人類のおどろおどろしいSFを想像すると少しがっかりするかもしれません。
というのも『イヴの時間』は一話15分のショートアニメ全6話を再構築して映画化した作品です。
15分の短編をつなぎ合わせたものなので大げさで壮大な展開になっていません。本当に日常の中にある、そんな作品です。
この点が見る人を選ぶところだと思います。SFとしてもっとエンターテイメントに特化していないと物足りない人もいるでしょう。ですがこういった静かな作品も時にはいいかなと思います。
テーマは深いけど答えは提示しない
アンドロイドが人間らしくなった時、人はそれを許せるのかというのが一つのテーマなんだと思います。
『イヴの時間』の世界ではアンドロイドがロボットらしく振舞っています。
アンドロイドに愛着を持つことは『ドリ系』と揶揄され、プロパガンダCMが盛んに流れています。
そういった社会の風潮もあり、主人公のリクオはロボットの人間的な部分を危険視しています。
このような人がどうやってアンドロイドの人間性を理解し受け入れていくのかがゆったりとした雰囲気で描かれます。
最初は疑心暗鬼になりながらもどんどん打ち解けていく様子はとても微笑ましく温かいです。
ただ短編の再編集ということもあってなかなか物語が深まっていかないのが残念でした。
もっと人間とアンドロイドの関係性を掘り下げるともっと深みのある作品になったのかなと思います。
結局のところ答えらしい答えは提示されないゆるっとした作品になってしまいました。
これはこの作品のいいところでもありますが...
映画としてのプロットは素晴らしい
こうやって文字におこそうとすると「テーマはなんだったの?それに対する答えは?」ということばかり考えてしまいます。
ただ『イヴの時間』は作風のためにメッセージ性を抑えてあります。
その辺では評価しづらいというのが正直なところです。
映画において一番大切なのは見終わった後の満足感ではないでしょうか?
その点では、かなり高得点です。満足感がすごい!!
映像としてもかなり作りこまれていますし、世界観も素晴らしい。
作品全体に流れる落ち着いた空気は秀逸です。
『イヴの時間』の感想と考察のようなもの
喫茶店『イヴの時間』はなぜ存在しているのかについて考えてみたいと思います。『イヴの時間』はアンドロイドが本当の自分を出せる息抜きの場のために存在するのではないのか...
そう考えちゃいそうなんですが、やはりアンドロイドに心があるとは考えにくいと思っています。やさしさのようなものを持っていることは確かですが...
設定資料によれば潮月博士という人がアンドロイドのAIを単独で開発した天才とのこと。そして『イヴの時間』の運営にも関わっている。
この潮月博士がアンドロイドを作った時愛着がわいちゃって人間と対等に共存することを望んだと考えられなくもないですが...
この説は勝手に否定したいと思います。そんな一人よがりな理由でアンドロイドを人間らしくするなんて狂気のさたです。
もっと深い人類全体に対する思いがあるはずです。
今回の主人公リクオはピアノのコンクールで優秀だったにも関わらずアンドロイドが話題になったことでピアノを辞めてしまいました。
友人のマサキは親の命令に従い続ける機械的な判断しかできないロボットへの失望がアンドロイドへの不信感の原因になっています。
それらが物語を通してアンドロイドの人間的な部分に触れ解決していきます。
マサキのエピソードに関してはロボットのロボットらしさが逆にマサキを傷つけることになります。
喫茶店『イヴの時間』はアンドロイドはもっと人間らしいほうが人にとっても良いのではないかという考えに基づいて作られたんだと考えます。
そしてその考えが広がっていくのではないかという期待も込めて運営されているんだと思います。
『イヴの時間』というタイトルの意味
クリスマスイヴの『イヴ』ってそもそもなんなのでしょうか。
『イヴ』は前夜を指すようです。大晦日はニューイヤーズイヴと言いますよね。
そういうことをふまえると『イヴの時間』は何かの前夜だということです。
何かとはもちろん人間らしいアンドロイドと人の共存でしょう。
人間らしいアンドロイドと人の共存の前夜にあたる時間を作る喫茶店ということです。
そう考えるとなんとも深みのあるタイトルではないですか?
はたして『イヴの時間』の世界で夜明けはくるのでしょうか。
人間らしいアンドロイドが人に受け入れられる時はくるのか...
続編については作りたいという発言があったようです。
もっと広がりそうな世界観なのでぜひ続編が見たいです。人間とアンドロイドの未来はどうなるんでしょうか。気になって仕方ありません。
イヴレンドでも飲んで気長に待ちますか。